無線機(インカム/トランシーバー)とは?無線機を取り扱う上での基本知識

私たちの身の回りでよく利用されている無線機ですが、取り扱う上で知っておくべき知識があります。この記事では、無線機の仕組みから法律的観点、セキュリティについて詳しく解説致します。
無線機(インカム/トランシーバー)とは?無線機を取り扱う上での基本知識
無線機の仕組み
無線機とは、その名の通り通信するにあたって線(ケーブル)を使うことなく通信できる機器のことです。通信には電波を使っており、お互いの周波数(チャンネル)を合わせることで通信できるようになります。
携帯電話との違いは直接通信を行う点です。基地局を介さず、発信側と受信側で直接的に電波のやり取りを行います。そのため情報伝達速度が早いのが特徴です。
遠く離れた人に一斉に情報を発信できる為、携帯電話よりも拡散性が高く仕事の効率化や安全の確保、レジャー用途まで様々な場面で利用されています。
無線機の電波方式について
AM(Amplitude Modulation)
AMラジオと同じ種類のアナログ電波変調方式です。
音に合わせて、電波の強弱を変えて信号を伝えます。広範囲に電波を飛ばす事ができ障害物にも強い反面、ノイズが乗りやすく音質もあまり良くありません。現在ではほとんど利用されていない電波変調方式です。
FM (Frequency Modulation)
FMラジオと同じ種類のアナログ電波変調方式です。
無線機ではNFM型式、ラジオではWFM型式が用いられています。
振幅は一定で周波数そのものが変化する電波変調方式です。AMに比べて振幅が広いためノイズに強く音声も高音質です。
PSK(phase-shift keying)
イギリスで開発された文字通信用のデジタルデータの変調方式です。
狭帯域で振幅が変化しないので弱い信号でも通信を行うことができるほか、ノイズの影響を受けにくく混雑している周波数帯での運用に適しています。
FSK(frequency shift keying)
搬送波信号の離散的な周波数変化を利用するデジタル変調方式です。送信側は常に一定振幅の電波を送っているので、伝送路での信号劣化やノイズに強い特徴があります。
QAM (Quadrature Amplitude Modulation)
四つの位相変調角を使うQPSKに振幅という概念を持たせて1シンボルあたりの情報量を増やしたデジタル変調方式です。
位相が直交する2つの波を合成して搬送波とし、それぞれに振幅変調を施して情報を伝送します。効率よくデータを伝送できますが、ノイズには弱いとされています。
無線機の法律的観点の話
無線機のように電波を発信する機器は誰でも好き勝手に使って良いというわけではありません。電波法によって細かく規定されています。
私たちの身の回りでは、トランシーバー・テレビ・ラジオ・携帯電話・Wi-Fi・警察・消防など様々な場面で電波を使用しています。同じ周波数の電波を同時に使うと電波が混信して正しく通信できなくなります。そういった不便が起きないよう、限りある電波を公平かつ能率的な利用を確保する為の取り決めが電波法です。
世界的にみても電波は行政が管理しています。日本では総務省が電波を管理しており、無線機の種類によっては使用者による免許取得や申請が必要になります。
免許申請が不要な無線機
免許や申請が必要ない無線機の種類としては、特定小電力無線機とIP無線機などが挙げられます。特定小電力無線機は出力電力が1W以下となっており電波法における免許不要局にあたります。
IP無線は携帯電話のパケット通信網を使用しており周囲の機器に影響が少ないため、免許申請は不要です。また、衛星通信ネットワークを利用する衛星無線機も免許申請は不要となっています。
免許申請が必要な無線機
デジタル簡易無線機は、出力電力が1W以上となるため免許や申請が必要となります。業務で安定した通信を確保したい場合は免許局、レジャーや一般用途で使用するなら申請のみで使用できる登録局を選択するのが一般的です。
罰則
免許や申請が必要な無線機を許可を得ずに不法に使用した場合は1年以下の懲役又は100万円以下の罰金の罪に問われます。重要な無線局に妨害を与えると、5年以下の懲役又は250万円以下の罰金に処せられます。
無線機の使用の有無に関わらず、使える状態にあるだけで違法となりますので購入の際は注意が必要です。
なお、電波法の改正により旧スプリアス規格のアナログ無線機の使用は2024年12月をもって違法となります。2007年11月30日以前に製造された無線機は旧スプリアス規格で製造されている可能性があるので、現在アナログ無線機をお持ちのかたは注意が必要です。
セキュリティ
無線機の利用にあたって気をつけなければならない問題がセキュリティ対策です。
実は第三者が無線を傍受すること自体は違法とはなりません。傍受した内容を第三者へ伝えたり、知り得た情報を利用することは違法とされています。
なので、情報を外部に漏らしたくない場合の無線機の取り扱いには気をつけなければなりません。
では、どのようにセキュリティ対策を行うべきか無線機の種類別に解説します。
特定小電力無線機
特定小電力無線機は手軽に使えるため利用者も多く、チャンネルの混信が起こりやすい機種です。メーカーが違っていてもチャンネルが合ってしまうと他社の無線機でも混信してしまうことがあります。混信するということは、傍受されるリスクがあるということです。
特定小電力無線機はアナログの電波に音声をそのまま乗せて発信するため、傍受した内容は音声として聞かれてしまうリスクが高いです。対策としては「秘話モード」を搭載したモデルを選ぶことで傍受されるリスクを軽減することができますが完全な対策とは言えないのが現状です。
デジタル簡易無線機
デジタル簡易無線機は電波信号がデジタル化されているため、傍受のリスクは極めて低いとされています。デジタル信号は暗号化にも対応しているため、仮に傍受されたとしても「サー」というホワイトノイズにしか聞こえません。しかし、高機能無線機を使ってデジタル信号を復調し秘話コードを解読することで音声として聞くことが可能となってしまいます。
IP無線機
通信キャリアの携帯電話網を利用して通信するため、かなり高い暗号処理が施されています。送受信にはIPアドレスを活用して、指定した相手以外とは通信できないようになっています。
特定省電力無線機、デジタル無線機よりも高いセキュリティ性能を誇ります。
衛星無線機
日本の大手無線機メーカーICOMとアメリカのイリジウムコミュニケーションズ社が共同開発した衛星無線機は通信にAES 256 という暗号化技術が使われています。この暗号化技術は、コンピューターを使った解読作業を行ったとしても数百兆年掛かると言われています。これにより衛星無線機も傍受のリスクは極めて低い無線機となります。
まとめ
無線機は大変便利な通信ツールですが、機種によっては免許や申請が必要となります。
免許申請が不要なモデルは特定小電力トランシーバー・IP無線機などです。デジタル簡易無線機は免許・申請が必要になります。電波法に違反すると厳しい罰則があるので、利用する際は注意が必要です。セキュリティについても第三者に傍受されたくない場合は、デジタル簡易無線機やIP無線機等を選ぶことでリスクを抑えることができます。